source:  wired.jp はるか遠くを見渡せる千里眼。手が届かない能力であるがゆえに、古からわたしたち人類の憧れの対象になってきた。この「夢の超能力」を、最新のテクノロジーが実現しようとしている。米国とスイスの共同研究チームが開発中の「望遠コンタク...

12:01 by aceartacademy
source: wired.jp







はるか遠くを見渡せる千里眼。手が届かない能力であるがゆえに、古からわたしたち人類の憧れの対象になってきた。この「夢の超能力」を、最新のテクノロジーが実現しようとしている。米国とスイスの共同研究チームが開発中の「望遠コンタクトレンズ」だ。

「望遠コンタクトレンズ」の直径は約8mm。普通のコンタクトレンズと変わらない大きさだが、近づいて見ると光の入り口が2つあることがわかる。1つは中央部にある円形の穴で、ここに入った光はそのまま通過し、視覚には何も影響しない。革新的なもう1つの入り口は、レンズ周囲の円形のスリットだ。このスリットに入った光はレンズ内部で回折・反射され、最終的に通常視覚の2.8倍の望遠効果が得られるという。これは35mmフルサイズの一眼レフカメラに135mmの望遠レンズ取り付けて見た視野と同等になる。

通常視野と望遠の切替えを行うために、レンズ中央部には偏光フィルターが取り付けられている。使用者は3Dテレビ用の3D眼鏡をかけ、レンズと眼鏡の偏光フィルターの方向の組み合わせを変えることで、標準・望遠の光の経路を切り替えるしくみだ。実験では、市販のサムスン製3D眼鏡が使用された。









「望遠コンタクトレンズ」の断面図。中央の穴は光をそのまま通し、周囲のスリットから入った光はレンズの内部で回折・反射され、拡大される。標準・望遠の切替は偏光フィルターによって行われる。“Switchable telescopic contact lens”: Eric. J. Tremblay, Igor Stamenov, R. Dirk Beer, Ashkan Arianpour, and Joseph E. Ford










標準・望遠の視野の比較。通常の2.8倍の望遠効果が得られる。“Switchable telescopic contact lens”: Eric. J. Tremblay, Igor Stamenov, R. Dirk Beer, Ashkan Arianpour, and Joseph E. Ford







実はほかにも「望遠コンタクトレンズ」の開発は行われている。しかしいままで開発されたものは4mm以上の厚みがあり、実用上の大きな課題になっていた。今回新しく開発されたレンズは、最も厚い部分でも1.17mmしかない。装着した際の違和感も小さく、実用化へ大きく近づいた。

この「望遠コンタクトレンズ」は、誰でも装着することができる。しかしこの技術を最も待ち望んでいるのは、加齢黄斑変性症患者だろう。加齢黄斑変性症とは、加齢に伴って網膜に異常が生じ、最悪の場合は失明にも至る疾患で、その患者数は全世界で増加している。iPS細胞の最初の臨床試験の対象としても話題となった疾患だ。今回の「望遠コンタクトレンズ」は、加齢黄斑変性症患者にとって、心理的にも受け入れやすい視覚補助器具になると期待されている。

「望遠コンタクトレンズ」の実用化には、まだ課題もある。例えば「色収差」と呼ばれる、色がにじんで見える現象によって解像度が低くなってしまうことだ。これを防ぐため、2種類の材質を組み合わせた全反射型レンズの開発が検討されている。また今回のプロトタイプは、初期のコンタクトレンズで使われていた気体不透過性の材質を使っており、現在市販されているレンズに比べると快適性が劣る。今後、気体透過性の材質を適用し、より快適な「望遠コンタクトレンズ」を開発する計画になっている。

コンタクトレンズを装着する気軽さで「千里眼」を獲得し、視覚障害をもつ人々を救ってくれる。「望遠コンタクトレンズ」は、わたしたちの未来への視界をも広げてくれるテクノロジーと言えるだろう。

参考:“Switchable telescopic contact lens”,Optics Express